前回は日本版DMO(観光地経営組織)のフロントランナーとして活躍している「せとうちDMO」の活動を紹介した。今回はDMOの健全な発展に不可欠の要素である安定的で自立的な財源の確保に焦点を当てたい。
欧米のDMOに精通している高橋一夫教授(近畿大学)はDMOの望ましいあり方として五つの要件を指摘している。
(1)官民共同で設立され、地域に持続的な経済効果をもたらす組織であること(2)観光行政との役割分担のもと、与えられた権限に伴う結果に責任を持つこと(3)観光地経営に伴う専門性を持つ人材によって経営・業務執行がなされること(4)多様で安定した財源を確保し、ステークホルダーとの良い緊張関係を保つこと(5)観光関連事業者だけでなく、農林水産業・商工業関係者など地域づくりに参画するさまざまな担い手と関わりを持つこと―だ。
さらに高橋教授は、行政とDMOと民間(観光関連事業者)の役割分担を明確にした上で、日本版DMOの「権限と責任の明確化」が不可欠と指摘している。
広島県はすでに日本版DMOが抱える諸課題として、(1)法的位置付けがなく、観光地経営の権限がないこと(2)現在のDMOの事業費(国費)が時限的で、安定した特定財源がないこと(3)受益者(特に宿泊事業者)によるガバナンスを効かせる仕組みがないこと―などを重視して、日本版TID法(仮称)の制定を国に対して提案している。
その意図は、(1)DMOが多様な関係者と協働しながら自らの責任で観光地経営を行える権限の付与(2)中長期的・安定的な財源の確保(3)受益者である宿泊事業者からの賦課金徴収による受益と負担の原則の観点から適切なガバナンスの確保―などである。
米国では1992年に初めてTID(観光改善地区)制度が導入されている。それ以前には多くの都市が宿泊税をDMOのための財源に充ててきたが、諸都市の財政逼迫が生じるとDMOへの予算削減が行われがちになり、財源確保の不安定性を解消するために、一定のエリア内の宿泊事業者の合意の下で宿泊収入から一定割合の賦課金を徴収する制度を導入した。現在では全米で約150のエリアでTIDが施行されている。
広島県の提案による日本版TID法では、宿泊事業者は賦課金納付・理事会参加、行政・議会はTID団体認定・賦課金徴収交付・DMO監視、DMOは事業計画策定・事業実施・行政への報告・理事会への報告、理事会はDMOの意思決定・DMO監視などの役割を担うことになっている。
観光庁は20年までに「世界水準のDMO」を100法人育成する目標を掲げている。日本版DMOが「世界水準の観光地経営組織」として健全に発展するためにはTIDによる安定的な財源確保が必要不可欠になる。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)